北海道のなだれ事故 6

Topic: 特集|

当時ニセコの取り組みを否定した科学的知見に基づく雪崩知識の普及は、今も講習会などを通じて全国的に行われている。研究者やなだれ専門家は事故が起これば現場に急行し、その原因を究明することを繰り返している。それが学問的に無意味とは思わない。しかし事故後に雪崩発生原因がわかり、ハ ザードマップに雪崩発生位置を記載しても、死者はもう帰ってはこないのだ。
この「弱層」に対する考えは最近、専門家の間で揺らいでいるようだ。その調査や見解を報道などで見ると、信じられないコメントがある。「急激に降り積もる雪は自重に耐え切れず、弱層がなくとも雪崩れおちる」というのはつい最近の高名な雪氷学者の意見だ。これは今まで依拠してきた弱層理論の例外について述べたものだ。例外を言うのならその学説は誤りということになる。

日本の雪崩講習会は科学研究の成果としての弱層理論を柱に、それを信奉する人たちによって行われてきた。雪崩知識は広く普及した。しかし事故は起こり続けている。事故に遭った人たちもその多くは講習会で雪崩知識を身につけた人のはずだ。そのような経験者や冬山のベテランと呼ばれる人たちが 事故を起こし、人命が失われている。この10年の講習会の雪崩教育を検討した時、講習内容の変化、またはすり替えがあることに気づく。中にはかつてニセコの取り組みを批判した人たちが、全くニセコと同じ方法を海外の文献から引用していたりする。そのような現状を見ると私には今日の講習会そのものが無意味に思えるし、その目的に対して疑問を憶える 。

最近、雪崩ビーコン(アバランチ・トランシーバー)を持って山に入ることが常識のように言われている。北海道警察もそれを持たない非を指摘している。ニセコでも勿論、利用者にビーコンを持つことを奨めている。過去のニセコの事故捜索は、全てゾンディーレン(ゾンデ棒を使う捜索)によって行 われてきたが、もし埋没者がビーコンを身につけていれば捜索時間は大幅に短縮されただろう。私は15年以上前からスキーツアーをする山岳ガイドにビーコンを持つことを奨めて来た。お客の安全を考える時、最善の策を講じるべきだからだ。今後、更にビーコンが普及すれば生存救出の可能性は高まる。しかしビーコンを所持していなかったばかりに捜索隊を二次災害の危険に晒した、と非難するコメントを見ると、 それは違うと思う。ビーコンを持つことはけっして冬山登山の常識ではない。

雪崩ビーコンの歴史は古い。この道具はアルプスの山岳戦で開発された。敵の背後に大砲を打ち込めば雪崩が起き、生き埋めにすることができる。ヨーロッパにおける第一次大戦での戦死者は、戦闘によるものより雪崩による死者の方が多かったという。第二次大戦後、スイスでは山岳兵を雪崩の危険か ら守り、捜索を容易にするために雪崩発信機の開発が進められた。そしてそれはやがて氷河スキーの事故からスキーヤーや登山家を守るための道具として用いられるようになった。

ビーコンは雪崩に遭遇する可能性の高い山岳スキーヤーやスノーボーダーにとっては必携の道具だ。そして時には冬山登山者にとっても命を救う道具になるだろう。しかし持っているからといって雪崩を避けられるわけではない。私はビーコンを持つことを知識と勘違いし、講習会に参加したことを経験 と錯覚する今日の風潮に危機感を持っている。雪崩ビーコンを盲信してはならない。また持たないことを非難すべきではない。冬山に入るのであれば、事故に遭わないために準備しなければならないことは他に山ほどある。

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