2008年 2 月 27日 の記事一覧

北海道のなだれ事故 資料

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資料1 ニセコなだれ情報第22号1月9日火曜日(ニセコ雪崩調査所が積雪調査中に発生させた雪崩)

8日、湯の沢南東面標高800mで断面試験中、厚さ60cmのスラブ雪崩が2回発生。発生は1/4層付近。標高1000m以上山頂付近で北西18m/sの風雪が続いている。風下斜面にはふきだまり(スラブ)が引き続き堆積。気温、風速の推移、8日断面観察など各データから重くスラブ化し不安定。朝7時ヒラフパトロール調査も同様の見解。立ち入り禁止区域南東斜面、東尾根雪庇斜面、大沢(アンヌプリボウル)、鉱山の沢(バックボウル)は雪崩の危険が高い。各山頂ゲートはクローズする。1/4層は霜系の層であり、9日も重いふきだまりの下で弱層となっている。事故は吹雪やその直後に起る。新雪を求め安易にロープをくぐってはならない。大勢が真似て事故の確率を高める。パトロールの意見を聞くこと。6番モイワゲートは開いていない。スキー場は利用者の安全に、常に関心を持っている。森の中の雪は良い。
Yesterday, during layer observation in Yu no Sawa’s south-east face at 800m, 2 major slab avalanches (60cm deep) from 1/4 layer has occurred. A strong wind of 18m/s is continuing above 1000m. Drifted snow is accumulating in leeward slopes. The temperature, the wind speed and the layer observations all proves that the snow slabs are heavy and unstable today. Hirafu patrol’s observations have also come to the same conclusion. Very high dangers of avalanche in south-east slopes in off limits areas, cornice slopes in Higashi One (east ridge), O Sawa (Annupuri bowl) and Back Bowl. Peak gates will be closed today.
The Jan 4th layer is a frost layer, and still is a considerable weak layer under today’s heavy wind drifted snow. Most of the accident happens during or right after a storm. Do not duck ropes to seek fresh snow as many people will follow and increase the chance of an accident. Ask for advice from the Ski Patrol. Moiwa Gate (No. 6) is still closed. The resort is always conscious about the users’ safety. The snow in the wood is good.

資料2 なだれ情報58号2月14日水曜日(八甲田山事故当日のなだれ情報)

アンヌプリ1100m風速データ及び海上保安庁データの推移から標高1000m以上では午前中に南東の風が強まる。山頂ゲートは状況の変化により閉じられる。パトロールの指示に従うこと。事故は悪天候の中で起る。ロープを安易にくぐりコース外に出てはならない。大勢が真似て事故の可能性を高める。今夜半から明日にかけて山は暴風雪となり、新雪のふきだまりが発達する 。吹雪の最中や直後のふきだまり(スラブ)は雪崩の巣となる。2月14日積雪表面は滑走により荒れているが、その上に「短時間で重く厚いふきだまりができれば」、2/14層は雪崩の発生層となる。降雪推移に注意。
According to Annupuri anemometer data and Japan Coast Guard wind data, a SW wind is forecasted to start picking up before noon. The peak gates might close later today depending on weather conditions. Follow the ski patrol’s instructions. Most accidents occur in poor weather. Ducking the rope must not be taken too easily. Many people would follow those tracks and increase the chances of an accident. The mountain will be engulfed by a huge storm from tonight to tomorrow, snowdrifts will develop rapidly. These snowdrifts (slabs), during or right after the storm, are the most unstable snow and is full of avalanche potentials. Today’s snow surface might be tracked out and bumpy, however would potentially become an avalanche trigger layer, if heavy and thick snowdrifts develop suddenly. Be conscious and mind about the snowfall transition from today.

資料3 なだれ情報59号2月15日木曜日
立ち入り禁止区域の「春の滝」「水野の沢」及び「湯の沢」、エリア外山岳地帯のアンヌプリ大沢及び鉱山の沢標高1200mトラバースライン以下、東尾根全域とモイワ見返り坂、五色温泉方面の雪崩リスクは高い。降雪推移と断面観察から、2/10層以上には低気圧前面降雪に特徴的な新雪結晶層があり(2/14-15層)、14日夜半までの南東の風雪による「重いふきだまり」の下で弱層となっている。朝にかけて低気圧中心の接近で風が弱まっている。低気圧の通過に伴い今後再び北からの風雪が強まり、ふきだまりが発達する。なだれ事故は悪天候の中、ふきだまり(ウインドスラブ・風成雪)の発達中に集中する。吹雪が収まり青空が出て 雪が安定するまで危険は続く。ゲート開閉は未定。パトロールの指示に従うこと。ロープをくぐってはならない。
VERY HIGH AVALANCHE HAZARD in the strictly off limits area (Haru no Taki, Mizuno no Sawa, Yu no Sawa) and the out of bounds backcountry area of O Sawa, Kozan no Sawa (Back Bowl), Higashi One (East ridge), Mikaeri Zaka (between Moiwa/Annupuri) and North Face towards Goshiki Onsen. The whole mountain is in extreme condition. According to snowfall transition and snow pit observations, a typical layer of new snow formed by the warm front of the passing low pressure system is present above the 2/10 layer. This layer is transforming into a weak & unstable layer underneath the heavy snowdrift developed by last night’s strong south-easterly wind. The wind is now mild because the center of the low pressure system is right above Niseko area, as the center moves east, a strong northerly wind & snow will start to pick up. The snowdrifts will develop drastically. Avalanche related accidents mostly occur during a storm while wind effected snowdrifts gets built up rapidly. Extremely hazardous condition will remain until the storm calms down and the blue sky reappears. The opening/closing of the gates is not decided yet. Seek for advice from the Ski Patrol. Do not duck ropes!

資料4 なだれ情報89号3月18日日曜日(積丹岳事故当日のなだれ情報)

6時山麓-6℃雪、山頂7時北西15m/s、1100m風速データ6時北西10.4m/s。17日午後からの降雪は風雪に変わり、標高800m以上では風下にふきだまりが発達。降雪推移から3/17層からの雪崩リスクが高まり始めている。東尾根方面は北風の影響でクラストし始めている。ノートラックの急斜面に飛び込む前に雪崩の危険を考えること。昨日の斜面が今日も安全とは限らない。標高1000m以上は弱い風雪が続き視界が悪い。各ゲートは通常通り開かれる。ゲートから出る前にパトロールの意見を聞き装備を確かめること。用心すれば事故は防げる。雪崩の危険を軽視してはならない。谷底にトラックをつけないこと。
-6℃and snowy at the base at 6am. 15m/s NW wind at the peak at 7am, 10.4m/s NW at 1100m at 6am. The snow from yesterday afternoon has been effected by the wind and made some new snowdrifts to develop in leeward slopes below 800m. Looking at the snowfall transition, avalanche hazard from 3/17 layer is now considerable. The Northerly wind has made the surface crusty in Higashi One. Be conscious about the avalanche danger before dropping into a steep slope. The snow condition changes day by day, a slope is not necessarily safe today just because it was safe yesterday. The visibility above 1000m is poor. All gates are scheduled to open. Ask for advice from the ski patrol and double check your equipment before you go through the gate. Accidents can be prevented if a minimum cautiousness is involved. Do not underestimate the danger of an avalanche. Avoid leaving tracks in the gully bottom.

資料5 ニセコローカルルール

ニセコローカルルール

ニセコローカルルールはスキー場エリア外を滑走する人々と、全てのスキー場利用者の安全のために作られた地域の公式ルールです

1.『完全立ち入り禁止区域』にはいかなる理由があろうと入ってはならない
湯の沢、水野の沢及び春の滝は、ニセコローカルルールによる「完全立ち入り禁止区域」です。これら3つの谷を滑走するとリフト券を没収します。

2. ロープをくぐってはならない
ロープをくぐる行為を禁止します。これらの行為を行うとリフト券を没収します。エリア外へはルールで定められたゲート(国定公園への入り口)から出なければなりません。

3. スキー場コース外は安全管理が行われていない
ニセコアンヌプリ山頂を含むスキー場エリア外は国有林または道有林であり、国定公園です。エリア外はスキー場によって管理されていません。ニセコローカルルールはエリア外滑走、山頂登山には危険が伴い、自己責任が問われることを明らかにします。

4. ゲートが閉じられている時はコース外に出てはならない
スキー場はニセコローカルルールに基づき、高い危険が予想される日にはスキー場利用者の安全のためにゲートを閉鎖します。

5. ニセコなだれ情報
「ニセコなだれ情報」は当日の雪崩危険度を評価する、ニセコローカルルールの公式情報です。この情報はリフト乗り場、各ゲート及びインターネット上に掲示されます。

6. コース外での捜索救助費用
エリア外で事故が発生し、スキー場パトロールが捜索救助活動を行う場合、スキー場はニセコローカルルールに基づき、当事者に実費を請求します。

7. スキー場及び山岳パトロール
ニセコローカルルールは利用者がスキー場パトロール、後志(しりべし)山岳パトロールの指示に従うことを求めています。

8. ルールの趣旨
スキー場と地域はニセコローカルルールの精神に基づき、利用者の自由を尊重するとともにその安全に重大な関心を払っています。

ニセコローカルルールはニセコアンヌプリ地区なだれ事故防止対策協議会、ニセコスキー場安全利用対策連絡協議会、ニセコフリーパスポート協議会、後志地方山岳遭難防止対策協議会によって定められました。

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北海道のなだれ事故 7

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二次災害の危険に対するニセコの考えは昔から明確だ。現場指揮者は自らの責任で雪崩の規模、デブリの状況などから危険評価を行い、二次雪崩の有無を判断して捜索を始める。そして生存の可能性がある限り捜索を続ける。救助技術で最も大切なことは、助けようとする気持ちなのだ。現在、ニセコでは各スキー場山頂駅舎にステンレスのゾンデ棒と、鋳鉄スコップを保管している。アルミスコップは雪崩が止まった直後、すぐに硬化するデブリには歯が立たない。ブレードの付け根から折れ曲がってしまうからだ。

ニセコのように標高差500Mに満たない小さな流域の谷では、事故に結びつく大規模な雪崩が起こればその殆んど全てが落ち、二次雪崩の危険は低下する。しかし北アルプスや日高山脈のような広大な流域と標高差のある山では状況は異なる。これらの山で雪崩が起きた直後は二次、三次雪崩の危険が続くことを忘れてはならない。たとえ見張りを付けても、時速100KMを超える雪崩から逃げることはできない。そもそも冬山登山では雪崩通路となる沢筋を、何の疑問も持たず登路として選び、また幕営することが非常識なことだ。しかし現代はこれらの雪崩地形が山岳スキーヤーやスノーボーダーによって当たり前に滑られる時代であり、その写真が雑誌を飾る。

雪崩地形だからと言って雪崩がいつも起こるわけではない。むしろなかなか起きない。その危険を判断し、避けることがスポーツとしての冬山登山や急斜面滑降の素晴らしさであり難しさだ。しかし人々は危険を過小評価し、やがて雪崩は起きないと思い込んでしまう。それを繰り返すうちに事故に遭ってしまうのだ。

私は1992年、パキスタン・カラコルムのラカポシという山で間一髪、巨大な氷河雪崩から逃れたことがある。懸垂氷河の崩壊は周期的に起こる。しかし予測はできない。そして発生すれば、時速200KMを超える雪崩から逃れることはできない。

その日、ナイフリッジとキノコ雪のルートに行き詰まった我々は氷河に下降し、クレバス帯にルートを求めていた。いつもより気温が高いと感じ、引き返しはじめた瞬間、標高差2500M上の懸垂氷河が轟音とともに崩れ、雪崩が始まった。雪崩の到達まで20秒はない。我々は必死で隠れる場所を探し、近くのベルグシュルンド(氷河の山側亀裂)に落ちる岩稜の陰に飛び込んだ。

直後に雪崩が襲い掛かってきた。無限に続くかと思える爆風に吸い込まれそうになりながら、我々は窪みの雪に打ち込んだピッケルにしがみついて耐えた。それは恐らく新幹線の屋根に、吹雪の日にしがみついているようなものだった。助かったのは、今考えても奇跡としか思えない。その時のザイルパートナーは遠征中に双子の赤ん坊の父親になる男だった。きっとこの子供たちが父親を救ったのだろう。

14回目のニセコ雪崩ミーティングが、12月22日にニセコで開かれる。今年の標語は「大切な人を失わないために」だ。私は雪崩の危険を軽視しない。そして事故は防止できると信じている。不可抗力の事故などないのだ。

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文:新谷 暁生(しんや あきお)
ニセコ雪崩調査所所長、シーカヤックガイド、登山家
1947年札幌生まれ。札幌西高、酪農学園大学卒業。
ネパール、パキスタン、中国、アンデスなどの山々を登る。1986年ヒマラヤ・チャムラン、1992年カラコルム・ラカポシで登山隊長を務める。1988年三浦雄一郎アコンカグア登山隊、1993年関野吉晴グレートジャーニーなど現地でのサポートを行う。1996年9月ホーン岬遠征。冬期のホーン岬を世界で初めてカヤックで漕破する。2000年5月、2001年5月アリューシャン遠征。知床半島のシーカヤックツアー「知床エクスペディション」は91回を数える。冬期はニセコでスキーシーズン中の毎朝「ニセコなだれ情報」を発信し、雪崩事故防止のための活動に取り組んでいる。ニセコモイワ山麓で30年にわたりロッジウッドペッカーズを経営。

新谷暁生氏の著書
73回目の知床
バトル・オブ・アリューシャン
アリュート・ヘブン

関連リンク:カミホロカメットクの雪崩事故現場に居合わせた登山者の記録(湯口公氏)

北海道のなだれ事故 6

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当時ニセコの取り組みを否定した科学的知見に基づく雪崩知識の普及は、今も講習会などを通じて全国的に行われている。研究者やなだれ専門家は事故が起これば現場に急行し、その原因を究明することを繰り返している。それが学問的に無意味とは思わない。しかし事故後に雪崩発生原因がわかり、ハ ザードマップに雪崩発生位置を記載しても、死者はもう帰ってはこないのだ。
この「弱層」に対する考えは最近、専門家の間で揺らいでいるようだ。その調査や見解を報道などで見ると、信じられないコメントがある。「急激に降り積もる雪は自重に耐え切れず、弱層がなくとも雪崩れおちる」というのはつい最近の高名な雪氷学者の意見だ。これは今まで依拠してきた弱層理論の例外について述べたものだ。例外を言うのならその学説は誤りということになる。

日本の雪崩講習会は科学研究の成果としての弱層理論を柱に、それを信奉する人たちによって行われてきた。雪崩知識は広く普及した。しかし事故は起こり続けている。事故に遭った人たちもその多くは講習会で雪崩知識を身につけた人のはずだ。そのような経験者や冬山のベテランと呼ばれる人たちが 事故を起こし、人命が失われている。この10年の講習会の雪崩教育を検討した時、講習内容の変化、またはすり替えがあることに気づく。中にはかつてニセコの取り組みを批判した人たちが、全くニセコと同じ方法を海外の文献から引用していたりする。そのような現状を見ると私には今日の講習会そのものが無意味に思えるし、その目的に対して疑問を憶える 。

最近、雪崩ビーコン(アバランチ・トランシーバー)を持って山に入ることが常識のように言われている。北海道警察もそれを持たない非を指摘している。ニセコでも勿論、利用者にビーコンを持つことを奨めている。過去のニセコの事故捜索は、全てゾンディーレン(ゾンデ棒を使う捜索)によって行 われてきたが、もし埋没者がビーコンを身につけていれば捜索時間は大幅に短縮されただろう。私は15年以上前からスキーツアーをする山岳ガイドにビーコンを持つことを奨めて来た。お客の安全を考える時、最善の策を講じるべきだからだ。今後、更にビーコンが普及すれば生存救出の可能性は高まる。しかしビーコンを所持していなかったばかりに捜索隊を二次災害の危険に晒した、と非難するコメントを見ると、 それは違うと思う。ビーコンを持つことはけっして冬山登山の常識ではない。

雪崩ビーコンの歴史は古い。この道具はアルプスの山岳戦で開発された。敵の背後に大砲を打ち込めば雪崩が起き、生き埋めにすることができる。ヨーロッパにおける第一次大戦での戦死者は、戦闘によるものより雪崩による死者の方が多かったという。第二次大戦後、スイスでは山岳兵を雪崩の危険か ら守り、捜索を容易にするために雪崩発信機の開発が進められた。そしてそれはやがて氷河スキーの事故からスキーヤーや登山家を守るための道具として用いられるようになった。

ビーコンは雪崩に遭遇する可能性の高い山岳スキーヤーやスノーボーダーにとっては必携の道具だ。そして時には冬山登山者にとっても命を救う道具になるだろう。しかし持っているからといって雪崩を避けられるわけではない。私はビーコンを持つことを知識と勘違いし、講習会に参加したことを経験 と錯覚する今日の風潮に危機感を持っている。雪崩ビーコンを盲信してはならない。また持たないことを非難すべきではない。冬山に入るのであれば、事故に遭わないために準備しなければならないことは他に山ほどある。

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北海道のなだれ事故 5

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最も危険な雪崩は、厳冬期に多発する面発生表層なだれだ。この雪崩は吹雪がつくるふきだまりの急斜面の、広い範囲が同時に崩れて起こる。ニセコなだれ情報は、ふきだまりの発達と安定から危険判断を行う。発達途中、つまり強い吹雪の最中に危険は最も高まる。吹雪が止んでもふきだまりはすぐに は安定しない。また安定に要する時間は標高や斜面の向きによっても異なる。そのためニセコでは風雪が収まりリフト運転が再開されても、ゲート開閉が慎重に検討される。

今年2月14日青森県八甲田山で起きた雪崩事故は、ゴンドラ駅舎で30m/sの風が記録される風雪の中で起きている。3月18日にはスノーモービルの一行4人が積丹岳で亡くなったが、当日山は強い冬型の吹雪が続いていた。今回の上ホロカメットク山の事故は、11月21日から2日間続いた風雪の後で起こっている。これらの事故 事例からもわかるように、多くの事故は吹雪かその直後に起こっているのだ。

事故が起こるたびに事故防止が叫ばれる。そして事故原因が議論される。しかし事故はすぐに風化し再び事故が繰り返されて行く。大切な人を失った遺族の悲しみは計り知れない。この連鎖は断ち切らなければならない。
以下に関連する先シーズンのニセコ雪崩情報を抜粋してみる。この情報はニセコの全スキー場に掲示され、インターネットでも見ることができる。スキー場に掲示される情報には断面観察データ、海上保安庁及び気象庁データ、アンヌプリ1100m風向風速データなどが適宜載せられる。雪崩に関心を持ってもらうためだ。尚「なだれ」を「雪崩」としていないのは、誰にとってもわかりやすい情報であることが目的だからだ。

雪崩は予測できる。不可抗力の事故などない。そして自然の中の危険は誰に頼るでもなく自分で予測しなければならない。それは動物的勘などという曖昧な自信であってはならない。知識があるという過信や驕りが結果的に事故を呼び寄せているということを知るべきだ。

雪崩は吹雪の最中と直後に起こりやすい。これが常識であることを知っているだろうか。少なくともこれはヨーロッパの登山家の常識だ。しかし日本では違うようだ。ニセコで雪崩情報が行われ始めた時、学識経験者や雪崩専門家に批判されたのは、この「吹雪が雪崩の原因をつくる」という考え方だった。1997年に京都で開かれた日本雪氷学会の雪崩セミナーで、「あなたは弱層という言葉をご存知か」と雪氷学者に発表を封じられ、ニセコの方法は否定された。理由は「科学ではない」というものだった。当時の専門誌には「科学でないものは滅びる」とまで書かれた。データに基づかないものは科学ではない。その通りだ。しかし私は必要に迫られてこの問題に関わってきた。そして今も変わらずに、科学的態度で情報の作成や事故防止に取り組んでいる。

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北海道のなだれ事故 4

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現在ニセコではルールに基づき、客観的に危険が予想される日にはゲートを閉じ、コース外に人を出さないようにしている。ロープをくぐる人は相変わらず多い。しかしそれが原因する結果を説明することで、そのような人は減り始めている。ニセコローカルルールは定着し始めたと言える。

勿論、中には自由の侵害であると、ルールを守らないことを公言する人たちもいる。しかしこのような登山やテレマークスキー愛好者の一部の行動や言動は自由の履き違えでしかない。ニセコローカルルールはスキー場のルールであって山のルールではない。スキー場を利用して安易に山に入ろうとする のなら、先ず多数の安全のために作られたこのルールの意味を理解し、守るべきなのだ。そもそもここが山ならルールは必要ない。山には他人に強制されるルールなどないからだ。ニセコローカルルールはここがスキー場であるが故の、やむを得ない理由から作られたルールなのだ。
標高1308mの山の1150mまでリフトが架かるこの山では、天気が良ければ誰もが山頂に登れるし、どこでも滑ることができる。道具や知識、経験を問わず、その権利がここでは認められている。その上で地域は全てのスキー場利用者の安全に関心を持ち、その自由を可能な限り尊重しようとしている。これがルールの根底に流れている考えだ。

ルールが浸透し始めた理由はそれが信頼に値し、滑り手の安全を守るとともに、自由が尊重されていることを大勢が認めた結果だと思う。「客観的危険」についてもここでは共通の理解が生まれ始めている。客観的危険の予測とは、雪崩が起こりやすい条件を具体的に示すことだ。

ニセコなだれ情報が出されるようになって15年経った。この10年ニセコの事故は減り始めている。死亡事故は1998年1月28日の春の滝事故と1999年3月13日の東尾根事故以来、起こっていない。山域も気象条件も異なるから一概には言えないが、日本各地で雪崩事故が増える傾向にあるのに対し、かつてあれだけ事故が多かったニセコの雪崩事故は確実に減り始めている。

ニセコでは主に降雪推移から雪崩危険評価を行う。ニセコなだれ情報は毎朝8時にスキー場に掲示される。積雪断面観察(ピットチェック)は毎日行われる。これは当日のなだれ情報の適否を確認する重要な作業だ。しかしピットチェックや弱層テストだけで危険判定はしない。初心者に雪崩発生の仕組みを説明したりするにはわかりやすい方法だが、これだけで雪崩リスクを判定することは殆んど出来ない、というより危険だ。雪崩の発生にはあまりにも不確定要素が多いからだ。また雪崩は人がかかわって初めて事故になる。この人的要因を無視すれば、情報は信頼されない。

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北海道のなだれ事故 3

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レポートで指摘された危険情報提供の義務は、コース外は全て危険とする危険告知義務にすりかえられた。そして「危険なコース外」の滑走は禁止され、それを破る者はパトロールに追われた。しかし古くからスキー場外の山を滑ることが行われてきたニセコで、誰もその規則を守るはずがない。危険なはずのコース外にはいつも素晴らしい滑走が待っていた。そこにスキー場が新しいリフトを架け、新雪滑走がより一層手軽なものになったのだ。事故が起こるのは当然だった。そこが本当に危険だったと知るのは、不運な遭難者だけだ。そして死者はもうその危険を語ることができなかった。

結果的に新田レポートは、利益を優先する当時のスキー場の責任回避の道具として使われた。その後のスキー場の事故対策は、事故が起きた場合の責任をどう回避するかに向けられて行った。索道事業者の団体である日本交通鋼索協会のこの基本方針は今も変わっていない。ロープを張り巡らせてコース 外滑走を禁止し、危険看板を設置すれば、スキー場は責任を果したことになる。もし事故が起きても、責任は決まりを破った当事者だけにあるのだ。事故は毎年のように続いた。そして私達は遭難者の発掘を繰り返していた。

しかし続発する雪崩事故を無視できず危機感を持ったスキー場は、現実的な事故防止対策を模索せざるを得ない状況に追い込まれていった。事故に遭う人もスキー場利用者なのだ。やがてニセコのスキー場関係者は現実に目を向け、安全への責任を果すべきではないのかと考えるようになった。

ニセコ山麓の行政機関は当初、観光への悪影響を恐れ、雪崩事故対策に及び腰だった。しかし当時のニセコ町長逢坂誠二氏の努力もあって、安全への積極的取り組みがむしろ良いイメージを持ち、地域の活性化につながると考え始めた。地域独自の事故防止対策として成果を上げている現在のニセコロー カルルールは、このような背景の中で生まれてきたものだ。

ニセコローカルルールはスキー場利用者のコース外滑走のルールだ。しかし国や道は今もこれを公式には認めていない。スキー場に貸しているのはスキー場コースであって、コース外滑走は建前上認められない、というのがその理由だ。ルールではコース外に出るためのゲートを設けている。出口がなければロープをくぐらなければならない。それではロープをくぐる人が絶えず、事故の可能性は高いままだ。ゲートがあればコース外に出る人たちに、コース外はスキー場ではないこと、また一歩ゲートから外にでればそこは自己責任の領域であることなどを説明し、コース外の状況に注意を喚起することができる。事故は小さなミス やその可能性のある行為を放置し、その数が限界を超えた時に起こる。ハインリッヒの法則と呼ばれているものだ。ニセコではその考えに立って関係機関に現状を説明し、粘り強くゲートの必要を訴えてきた。そして一昨年、ゲートは後志森林管理署によって認められた。ただしそれはコース外滑走のための出口としてではない。「 国定公園への入り口」という名目だ。このアイディアを考え、関係機関を説得して回ったのは前北海道後志支庁地域政策課長、貞村英之氏だった。だから道はニセコで大きな役割を果したことになる。

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北海道のなだれ事故 2

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雪崩に遭って助かることは稀だ。それは捜索を体験すればわかる。死者は胸に手を合わせて埋まっているわけではない。皆、苦悶の果てに亡くなっている。何よりも悲惨なのは遺族の悲しみだ。残された家族の時間はその時から止まってしまう。事故対策で最も大切なことは、事故を未然に防ぐことだ。 この稿では近年の北海道の雪崩事故についてその背景にあるもの、またニセコの事故防止の取り組み等を書こうと思う。ここに書くことが悲惨な冬山事故を少しでも無くすことに役立つことを願っている。
戦前戦後を通じ、ニセコはスキー登山の山として栄えてきた。ヒマラヤのマナスル初登頂によって起こった登山ブームの中で、ニセコでもスキー登山者が増え、事故が起こり始めた。1963年2月24日には、ヒラフスキー場に隣接する沢でスキーヤーが雪崩に巻き込まれ、一人が亡くなっている。この沢は今日、遭難者の名前を取って「藤原の沢」と呼ばれている。

ニセコの事故は1980年代半ばから多発し始める。この頃、各スキー場はそれまで標高1000m付近までだったリフトを、競ってアンヌプリ山頂直下、標高1200m付近まで延長した。その結果、以前は誰も滑らなかった山頂付近の急峻な谷に誰もが簡単に行ける状況が生まれた。1972年にエベレストをスキー滑降した三浦雄一郎氏の冒険に憧れた人たちは多かった。彼らは未知の斜面に競ってシュプールを描き、それと同時に事故も増え始めた。ニセコではリフト延長後の1985年から15年あまりの間に、9名が雪崩で亡くなっている。これは単一の山での雪崩事故としては日本で最も多い。

1983年、北海道大学農学部の新田隆三博士によりまとめられた「ニセコアンヌプリ山頂付近スキー場化に伴う安全対策に関する所見」の中には以下の記述がある。「スキー場は不特定多数が利用する有料自動車道に似ている。管理者は利用者に絶えずコース情報を提供すると同時に、利用者の事故を最小にするようコース整備、標識の充実、SOS電話の設置などの面でも道路管理者に見習うべきであろう」。

このレポートが書かれてから25年近くたった。結論を言えばこの新田レポートがその後のニセコの事故対策の指針となったことは事実だ。スキー場はこの勧告を受け、雪崩斜面の圧雪やパトロールによる危険除去、危険地帯の表示などを行ってきた。しかし事故はこのレポートに従って対策を講じても起き続けた。理由は新田レポートが指摘した「 スキー場は有料自動車道に似ているから利用者に絶えずコース情報を提供する」という、専門家が簡単に述べたサービスが言うほど簡単ではなく、実行されなかったためだ。

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北海道のなだれ事故 1

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1980年代半ばから90年代後半にかけて、ニセコは雪崩事故で9名の命が失われた。その後の事故防止活動は一定の成果をあげ、ニセコでは8年にわたって死亡事故が起こっていない。その一方で各地での雪崩事故が頻発し、今年3月の積丹岳に続き11月23日には十勝連峰で4名の命が失われた。

この稿では雪崩事故が何故起こるかを雪崩教育のありかたやニセコの事故防止対策の説明などから考察した。また制度上の不備や観光優先による危険軽視などへの意見も述べた。ニセコの事故防止に関わってきた者として次の点を強調したい。雪崩事故は防ぐことができる。不可抗力の事故はない。

参考資料としてニセコなだれ情報の抜粋、2008年度版ニセコローカルルール及び雪崩事故防止啓発ポスターを掲載する。


去る11月23日、十勝山系上ホロカメットク山の雪崩事故によって尊い人命が失われた。亡くなられた4人の方たちは日本山岳会北海道支部の会員であり、冬山訓練のために入山した矢先の事故だった。団塊の世代に属する人たちが見出した山への憧れがこのような結末を迎えたことが、同じ世代に属する者として残念でならない。

上ホロカメットク山はオプタテシケ山、美瑛岳、十勝岳、富良野岳と連なる十勝連峰の山々のひとつだ。今回事故が起きた白銀温泉や十勝岳温泉を中心とする一帯は優れた登山根拠地として昔から知られており、最近ではそのアプローチの容易さやパウダーブームの影響を受け登山者やスノーボーダーなどが増加し、事故発生が懸念されていた。

私はニセコで雪崩事故防止活動に取り組んでいる。かつてニセコは日本で最も雪崩事故の多い山だった。十勝連峰が冬山登山の山として人気が高かったと同様、ニセコ連峰もまたスキー登山の山としての立地条件に優れ、山に入る人が多かったためだ。

ニセコにはスキーの名手は多いが冬山登山の経験者は少ない。35年前ニセコで暮らし始めた私は、町に住む人たちと共に事故のたびに捜索に参加してきた。捜索の結末はその多くが遺体発見に終わった。

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